「自分がおもしろいと思うことに自信がある」というのは、人として強い。下田裕之さんの話を聞いていると、そう感じる。作品やものごとに対して、おもしろいか、おもしろくないか、という判断は主観的なものだ。だからこそ、そこは自分勝手に、徹底して独善的な判断を下してよいはずだが、己を振り返ってみると自信の程に迷いがあるときがある。おもしろい! と盛り上がっても、気の迷いだったかな…そうでもないか […]

   中学〜高校時代、80年代のことだけを考え続けてきた下田裕之さんは、2005年、法政大学に入学して哲学を専攻した。担当の先生はバタイユが専門だったが、下田さんが興味をもったのはジャン・ボードリヤールというフランスの哲学者だ。   「たとえば、やかんの使用価値は『湯をわかす』ところにあります。この社会に、やかんが30個しかなかったら、『湯をわかす』機能が重宝されるけど、ひとり […]

   下田裕之さんは、1984年、兵庫県伊丹市に生まれた。その1ヶ月後には東京の中目黒に引っ越し、4〜5歳くらいまで過ごす。その後、埼玉の浦和市(現・さいたま市)に移り、小・中・高校まで通った。下田さんにとって忘れがたく、のちの人生に大きな影響を与え続けているのが、80年代半ばから末期にかけて過ごした中目黒での記憶だ。   「中目黒や祐天寺あたりの風景にインパクトがあったことを […]

   下田裕之さんが、勤めていたジュンク堂書店を退社したのは2018年2月。2016年に店長となった立川店が最後の店となった。大書店を辞めて自分の店を持とうと思ったのは、「自分で選択できる領域」を求めてのことだ。   「2010年代に書店員として働いていた間、考え続けていたのは、ネットが普及してきたことで、90年代的なメガストアにインフラとしてどんな役割があるのか、ということで […]

   2019年3月、東京都国分寺市に古本屋さんがオープンした。店名を早春書店という。店主の下田裕之さんはジュンク堂書店に10年勤めたのち、35歳で自分の店をもつことになった。これから始まるシリーズは、この下田さんの話だ。    下田さんが大学を卒業してジュンク堂書店に就職し、書店員になったのは2008年。   「正直なところ、学生時代に自分の将来のことをきちんと考え […]

  いま、徳永直良さんは、かなり頻繁にブックオフに通っている。買うのはもっぱら108円の文庫本だ。   「2016年2月に友朋堂が閉店して、7月から『ポリテクセンター茨城』に通うようになりました。その近くにブックオフが2軒あるんですね。平日ポリテクに行って、土日は休みで、その合間に履歴書を送ったり就職活動はするんですが、まあ比較的時間があるんです。それで行き始めて。当初は理工書 […]

   2016年、勤めていた友朋堂書店が閉店し、徳永直良さんは次の職を探し始める。 「ポリテクセンター茨城」という雇用支援をする施設で半年間、職業訓練を受けて、翌年、第二種電気工事士という資格をとった。「一般住宅・店舗など600ボルト以下で受電する設備工事に従事できる資格」で、コンセント工事などに必要になってくる。  なぜこの資格に目をつけたのか。   「2011年の東日本大震 […]

   今回の取材時、徳永直良さんに会う前に、わたしは友朋堂書店の吾妻店に立ち寄ってみた。つくば駅から、エキスポセンター内にある実物大モデルのH2ロケットを見ながら歩く。  区画整理された住宅地を抜けると、「本」というネオンサインのポールが立っている。すごく高いポールだ。平屋建ての店のガラスドアには「小さな手袋の忘れものをお預かりしています」とイラストを添えた紙が貼ってあり(2月だった)、 […]

   徳永直良さんが生まれ育ったのは、愛媛県周桑郡小松町。現在の西条市だ。  実家周辺の地図を、自ら持参した小さなノートに書きながら説明してくれる。   「最寄りは予讃線の伊予小松駅で、高松と松山をつなぐ国道11号線がこう走っていて、妙之谷川が南北に流れてます。南のほうには四国でいちばん高い石鎚山があって、ここには四国八十八箇所札所の横峰寺があります」    ボールペ […]

   茨城県つくば市に、友朋堂書店という本屋さんがある。  1981年に吾妻店がオープンすると、当時、学園都市として街づくりが進みつつあったこともあって、1日で数百万を売り上げることもあるほど人がおしかけ本が売れた。棚に本を補充するのが追いつかないほどだったという。筑波研究学園都市として国の機関や研究施設、民間企業の研究所が移転してくれば、住む人も増えていく。80〜90年代には、大小の本 […]